グリーフ(悲嘆)その2

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■はじめに
愛する人を亡くすと大きな悲しみを感じ様々な症状が現れます。それを癒すには努力
と長い月日が必要です。グリーフワーク(悲嘆の作業)が正常に行われないと悲嘆の
プロセスが遅れたり抑制されたり、長引いたり、欠如したり人生を前向きに歩めなく
なったり結果として人間的成長が阻害されることになります。
相手を励ますつもりで言った言葉でも状況によっては悲嘆のプロセスを阻害すること
にもなりかねません。今回は周囲の人が注意しなければならない事などをお伝えしま
す。
■具体的な事例
1 悲嘆の期間について
死別後1年も経って嘆いていると周囲は「いつまで嘆いているんだ」としばしば叱咤
する場面があると思います。悲嘆は半年から1年で完了することが多いと言うだけで
2年悲しんでも3年悲しんでもその期間はその人にとって必要のある悲しみの期間で
す。特に子供さんを失った場合や自殺の場合は5年続いても正常なプロセスです。
2 ○○さんを失った事について考えない方が苦しみは少ないという考え方
「○○さんを失った事について考えない方が悲しみが少ない。もう忘れなさい」と良
く言われるセリフがあります。無理に喪失体験を忘れて新しい世界に入ろうとすると
逆に悲嘆のプロセスを正常に歩めなくなって病的悲嘆に陥る事があります。失った事
をゆっくり考えなければなりません。
3 喪失について触れない方が遺族にとって良いだろうという考え方
「旦那さんを失った事については触れない方が奥さんにとって良いだろう」もちろん
その様な事もあるでしょうがむしろ触れてもらって「さぞかしつらいでしょうね」と
慰めてもらった方が助けになる人が多いことも事実です。声をかける側も悲しむ事が
当たり前だと受け止めて相手の話を聞いてあげ、共に悲しみを分かち合うようにしま
しょう。
4 怒りや罪責感を感じるのは異常であるという考え方
死んだ人を恨んだり医者を恨んだりあるいは自分を恨んだり責めたりするのは異常で
あるという考え方は誤りです。怒りや罪責感は悲嘆のプロセスとしては通らなくては
ならない関所のようなものです。一時的にその感情に浸ったとしても決して異常では
ありません。
5 喪失の事を話したり感情を表出したり泣いたり叫んだりすることが大切です
喪失の事を話したり、感情を表出したり、泣いたり叫んだりできる方が悲嘆プロセス
を促進して早く辛い状況から立ち直る事が出来ます。泣いた後はたいてい気分がすっ
きりします。気分の爽快感は悲嘆プロセスの促進を意味します。
6 小さい子供には親の死を教えない方はよいという考え方
小さい子供には親の死を教えない方が良いとする考え方が一般的ですがこれは非常に
危険です。子供にとっては親が突然亡くなる訳ですがその説明を誰からもしてもらわ
ない場合その子供の精神の成長に障害が起きる事が良くあります。中には非行に走る
事もあるそうです。子供はその年齢相応に死について概念化しているので子供が理解
できる言葉で「あなたのお父さん(お母さん)は死んだのよ」と伝える必要がありま
す。また、状態が悪くなった段階で「もうすぐあなたのお父さん(お母さん)はこの
世を去るかも知れない」という事を教えてあげた方が受け入れやすいでしょう。
○小さい子供の留意点
子供は喪失後、非常に早い新しい関係を形成する傾向があります。その結果として子
供は、死別を体験している親たちと歩調が合わなくなることになります。死別を体験
している子供達は全て将来情緒問題を持つ危険性があるとも言われています。
○サポートのためのガイドライン
もし子供の親が末期状態であるならば「この状態は誰も手を下しようが無い。出来る
だけ命を長引かせる手は全て打った」ということを教えます。そして死を伝える時が
来たら死の知らせを見合わせてはいけません。子供が理解できる単純な言葉を用いて
真実を教えます。
7 薬物やアルコールは悲嘆の痛みを緩和するという考え方
辛い時はお酒を飲んだり安定剤を飲んだり良いというのは余りお奨めできないでしょ
う。
安定剤はそれによって情緒を安定させるので逆にたどらなくてはならない悲嘆のプロ
セスを遅らせてしまう可能性があります。
アルコールもかえって自責の念が強くなり辛くなる事も。また、飲み過ぎは家族や親
族の非難や拒絶に繋がりやすく家族関係まで悪化させてしまうことにもなりかねませ
ん。更にはアルコール依存症の危険性があります。
8 悲嘆しすぎると健全な精神を喪失するという考え方
人によって、その人固有の悲嘆の仕方がありますので悲嘆のしすぎ泣きすぎと言うこ
とはありません。
9 怒りは悲嘆の正常な情緒反応ではなく表出を奨励すべきじゃないという考え方
つまり怒ってはいけない、医者や遺族に対して怒りを向けてはいけない。しょうがな
いじゃないの今更などという考え方がありますが、実は怒りたい時には怒ったらいい
のです。
問題は周囲の人がこれは怒っているんだと受け止めるのではなく悲嘆しているんだと
懐深く受け止め冷静に対応する必要があります。
また、故人に対して「置き去りにされた」という怒りの感情は正常な情緒的反応と言
われています。
10 悲嘆のプロセスは短い方がよいと言う考え方
理性のコントロールによる悲嘆プロセスの短縮化は数ヶ月〜数年後に悲嘆そのものが
身体症状の形で再発することもあるそうです。悲嘆のプロセスはその人固有の期間が
あります。決して短い方が良いとは言えないでしょう。特に1ヶ月以内で元気になっ
てしまう人は病的悲嘆に陥る危険性が高いそうです。
■おわりに
悲嘆について周囲の人の理解もさることながら自助グループ”ひまわりの会”のよう
な同じ悲しみの体験を持つ人達と互いに支え合う事ができたら素晴らしい事ではない
でしょうか。

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このブログ記事について

このページは、木村知弘が2005年12月15日 11:51に書いたブログ記事です。

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